f(x+y)=f(x)f(y)を満たすけどf(x)=exp(ax)ではない例

続きです。

akiyah.hatenablog.com

前回は
{ \displaystyle f : \mathbb{R} \to \mathbb{R} }

{ \displaystyle f(x + y) = f(x)f(y) \ (\forall{x} \in \mathbb{R}) \\ f(0) \neq 0 }
を満たすものを探していて、
{ \displaystyle f(x) = \mathrm{e}^{ax} }
を見つけたところでした。今回はこれ以外のものを探してみます。

{ \displaystyle f(nx) = f(x)^n \ (\forall{x} \in \mathbb{R}, \forall{n} \in \mathbb{Z}) }
であり、左右を逆にしてちょっといじると
{ \displaystyle f\left(\frac{x}{n}\right) = f(x)^{\frac{1}{n}} \ (\forall{x} \in \mathbb{R}, \forall{n} \in \mathbb{Z}, n \neq 0) }
なので、まとめると
{ \displaystyle f\left(qx\right) = f(x)^q \ (\forall{x} \in \mathbb{R}, \forall{q} \in \mathbb{Q}) }
です。{ x=1 }に注目すると、
{ \displaystyle f\left(q\right) = f(1)^q \ (\forall{q} \in \mathbb{Q}) }
ですね。つまり、定義域を有理数{ \mathbb{Q} }に限定して考えると、条件を満たす関数{ f(x) }{ f(x) = \mathrm{e}^{ax} }の形しかありません。
ここまでは前回言いましたね。

これ以外の条件を満たす関数{ f(x) }は存在しないんじゃないか、と思って証明しようとしても、うまくいかないんですよね。{ f(x) }が連続であると仮定しないと、有理数{ \mathbb{Q} }以外、例えば{ f\left(\sqrt{2}\right) }がどんな数字になるか想像すると、どんな数字にしても成り立つんじゃないかと思えてきます。実際そうなんですよね。定義域に関しては足し算(→整数の掛け算、割り算)しか条件に入っていないので、それ以外にどう設定しても構わないはずなんです。

ここで、ハメル基底というのを紹介します。実数{ \mathbb{R} }有理数{ \mathbb{Q} }上の(無限次元)ベクトル空間とみなせます。その基底をハメル基底というのです。

Hamel Basis -- from Wolfram MathWorld

書き直しておくと、{ \{U_{\alpha} \in \mathbb{R}\} }がハメル基底であるとは、次の条件を満たすときです。
{ \displaystyle \forall{x} \in \mathbb{R} \\ \exists!{n} \in \mathbb{N}, \exists!{r_i} \in \mathbb{Q}-\{0\} \\ x = \sum_{i=1}^{n}{r_i U_{\alpha_i}} }
このハメル基底が、具体的にどんなものであるかは、書き下せないし、わからないんです。 ハメル基底の濃度は連続濃度だし、存在するかどうかも選択公理を認めるかどうかに依存しています。

まあ、細かいことは置いておいて、ハメル基底がとれれば、条件を満たす関数{ f(x) }は作ることができます。ハメル基底 { \{U_{\alpha} \} }に対して、適当に { f(U_{\alpha}) \in \mathbb{R}-\{0\} }を与えてあげればいいのです。
そうして、自然に拡張して
{ \displaystyle f(x) = f\left(\sum_{i=1}^{n}{r_i U_{\alpha_i}}\right) := \prod_{i=1}^{n}{f(U_{\alpha_i}})^{r_i} }
とすれば良いです。

ハメル基底に { 1 }が含まれるとして、{ f(1) := \mathrm{e} }とおき、それ以外のハメル基底に対しては { f\left( U_{\alpha} \right) := 1 }とでもしてあげれば、求めるものが得られますね。ここで注意しなくてはいけないのは、こうして定義したからといって、具体的にどういう値をとるかわからないということです。
たとえば 有理数じゃないから { f(\sqrt{2})=1 }、とはならないのです。
ハメル基底に 1 と{ \sqrt{2}-1 }が含まれていたら、
{ \displaystyle f(\sqrt{2}) = f\left(1 + (\sqrt{2}-1) \right) = f(1)f(\sqrt{2}) = 2 \times 1 = 2 }
なんですよね。求める例は作れたけど、人間の想像を越えた世界の例ですね。